浦島太郎
浦島太郎
昔、丹後国(今の京都府北部)の海辺の村に、浦島太郎という若い漁師が住んでいた。心優しく情け深い性格で、村人たちみんなに慕われていた。
ある日の夕方、太郎は浜辺で子どもたちが一匹の亀を捕まえて棒でいじめているのを見かけた。
「やめなさい、この可哀想な子をどうしていじめるんだ」
太郎は子どもたちをたしなめ、いくらかのお金を渡して亀を買い取り、海へ逃がしてやった。亀は何度も頭を下げるように水の中へ消えていった。
翌日、太郎がいつものように舟を漕ぎ出すと、昨日の亀が再び現れて話しかけてきた。
「昨日は命を助けていただき、ありがとうございました。そのお礼に、竜宮城へご案内したいと思います。私の背中にお乗りください」
太郎は驚いたが、亀の背に乗り、亀は彼を乗せたまま深く青い海の底へと泳いでいった。ほどなくして、珊瑚と真珠で造られた華やかな宮殿、竜宮城が目の前に現れた。
竜宮城には乙姫という美しい姫が住んでいた。実は乙姫こそ、太郎が助けたあの亀だったのだ。姫は太郎を手厚くもてなし、鯛やヒラメが舞い踊る宴が催された。四季が一堂に会したような美しい庭園、山海の珍味、そして時の経つのも忘れるほどの楽しい日々が続いた。
太郎はそうして三日を過ごしたつもりでいたが、ふと故郷の年老いた母のことが恋しくなった。
「姫様、そろそろ故郷へ帰らねばなりません。母のことが心配なのです」
乙姫は名残惜しそうにしながらも、彼を引き止めはしなかった。代わりに別れの贈り物として、美しく飾られた小さな箱、玉手箱を渡しながらこう言った。
「この箱は決して開けてはいけません。この中には、あなたを守る大切なものが入っているのですから」
太郎は再び亀の背に乗って陸へと戻った。しかし村の景色はどこか見知らぬものになっていた。自分の家があった場所には見知らぬ家が建ち、知った顔は一人も見当たらない。村人をつかまえて尋ねても、彼の知る名前を誰も知らなかった。
「浦島太郎という人は……ああ、それはずっと昔、何百年も前に海へ出たきり戻らなかったという、伝説の中の人物ではありませんか」
竜宮城で過ごした三日は、実にこの世の三百年だったのだ。呆然とした太郎は、思わず乙姫から渡された箱を開けてしまった。その瞬間、箱の中から真っ白な煙がもくもくと立ちのぼり、煙が晴れると太郎はたちまち白髪の老人になっていた。箱の中に入っていたのは、他でもない太郎の「歳月」だったのである。
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